日本大学医学部 内科学系循環器内科学分野
教授 奥村 恭男先生
① 登録の前倒しについての感想
本試験の対象患者を考えると、循環器では肺血栓塞栓症(PE)の患者が主になる為、登録は少ないと予想していました。しかし、約2か月の登録期間前押しの現状を踏まえると、深部静脈血栓症(DVT)の患者がこれほど多いことに驚いています。血管外科やDVT治療も行っている循環器科の先生方が精力的に参加してくれたのが登録期間前倒しの要因ではないかと考えています。
② 研究事務局総括、研究参加医師の両面から感じる今後のJ’xactly Studyの課題
【登録患者の追跡率の向上】
登録患者の追跡率を高めることが重要になってくると思います。他試験になりますが、3,000例の登録に対して9割以上の追跡率となった試験がありました。その際に行ったのは、来院のない患者へのはがきや電話でのコンタクトです。具体的には、最初に研究薬の服用やイベントの発生等をチェック項目にしたはがきを送付しました。半分ほどは返信がありましたので、残りの返信がない方を電話で聴取していくという運用でした。電話については、患者様へ慎重に『研究には既に参加いただいていること』『研究の中で病院が実施する調査の一環であること』を伝えるようにしました。地道な作業になりますが、登録患者を追跡不能にしてはいけないとどれだけ多くの医師が感じるかということが重要になってくると思います。海外の論文の追跡率と本試験の追跡率を定期的に連絡する等、常に追跡率を参加医師に意識してもらう工夫が必要だと感じています。
【コーディネーターとの協力体制】
院内にコーディネーター等の協力者がいる施設については、登録患者の追跡やデータ入力の協力体制を強固にする必要があると思います。
当院では、分からないことがあれば直ぐに連絡してもらうようにしており、コーディネーターとは密にコンタクトをとるようにしております。また、他試験での経験が豊富なコーディネーターについては、基本的には担当者に任せるようにして医学的な判断を伴うような項目については確認するようにお願いをしております。
【イベント・出血事象の報告】
報告されたイベントや出血事象について、可能な限り詳細を記載いただくことが重要となってきます。特に出血事象については、ISTH大出血基準(研究実施計画書:出血事象の評価基準)に沿って判断いただき、EDCに詳細な情報の入力をお願いします。
③リアルワールドでの治療とガイドラインとのギャップ
当院ではこれまでヘパリンでの前治療を実施した後にDOACを処方しておりました。
その点では、初期からDOACを処方した症例のイベントや出血の発現率はとても気になります。
また、本試験では無症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)患者や担癌患者についても登録可能としており開発試験と比較すると登録基準の範囲を広げております。また、日本では出血のリスクを考慮し、under-doseで処方する傾向があるので、そうしたこれまでの開発試験では組み入れられていない患者が多く登録されていると思います。そのような実臨床に沿った症例のイベントや出血の発症率のデータが創出されることを期待しています。