調整委員へのインタビュー⑧ 公益財団法人 心臓血管研究所 所長 山下 武志 先生

公益財団法人 心臓血管研究所 所長 山下 武志 先生

山下 武志 先生
■現在の登録進捗について、先生のご感想をお願いします。(2018年2月15日時点:827例)
 予想以上に症例登録が進んでいることに驚いています。本研究に限らず、様々な領域や地域に分かれて臨床研究を実施していますがその多くで進捗が順調であると感じています。その背景としては、日本における臨床研究のモチベーションが2000年代と比較すると高まってきており、臨床レベルが向上していることが挙げられるかと思います。
 また、深部静脈血栓症(DVT)及び肺血栓塞栓症(PE)について、以前は日本では比較的発生頻度の低い疾患と思われていた歴史がありました。しかし、実状はそうではないという啓蒙活動が昨今活発となっており、実際に本研究の進捗を見ると日本においても静脈血栓塞栓症(VTE)患者が増えてきていることが見てとれるかと思います。

■来院のない患者様に対しても追跡調査を行う重要性について、先生のお考えをお聞かせください。
 登録研究において、登録が順調な場合の次のステップが「lost to follow-up(追跡不能例)」をいかに減らすことができるかだと思います。しかし、残念ながら日本においてはその認識がまだ成熟しておらず今後の課題であります。
 例えば、ある施設で10例の登録があり、7例が通院あり、3例が通院なしの場合、医者の視点では通院なしの3例まで状況を把握しきれません。しかし、もしその3人の方が亡くなっていればイベント発症率が30%となり、試験の結果と信頼性に大きな影響を与えてしまいます。日本においては来院のない患者さんに手紙を出すことに抵抗のある医師が多くいますが、追跡情報が収集できない症例が多くなると本研究の根幹を揺るがす事態に発展する可能性があります。その重要性について改めて認識いただき、追跡調査の実施をお願いします。手紙については、個人の見解ですが1度出すと6割程は返送され、2度出すと8割程は返送される印象があります。追跡調査を実施する際はまずは手紙を出していただき、それでも返信がない場合は電話で聴取するのが良い手段かと思います。
 本研究がlost to follow-upを減らすという日本の臨床研究の課題を解決する先駆けの研究になることを願っています。

■新たにご登録を始められるご参加施設へのメッセージをお願い致します。
 観察研究では0例施設、1例登録のある施設、5例以上登録のある施設とそれぞれの段階ごとに試験に対する認識が異なってきます。本試験は医師自らが参加を申し出て実施しているかと思います。観察研究は敷居の低いものが多いので、まずは1例の登録を目指していただきたいと思います。